日本臨床救急医学会:全国47の医療機関に救急搬送された20歳未満の自傷・自殺未遂者は13.0%

WHO(世界保健機関)は、自傷・自殺未遂に関するデータの整備を各国に求めています。政府もまた、自殺対策の一つとして、自殺未遂者に関するデータベースを整備する方針を打ち出しています。このことが重視される理由は何でしょうか?自傷・自殺未遂の出来事は将来の自殺の重要なリスク要因とみなされています。自傷・自殺未遂者の再度の自殺企図を防止するには、自傷・自殺未遂者を支援することが重要です。支援するには、自傷・自殺未遂者の情報を蓄積して実態を把握することが欠かせないからです。

ところが、わが国にはデータ蓄積のシステムがなく、自傷・自殺未遂の実態の把握ができませんでした。そこで、日本臨床救急医学会は、全国の救命救急センターに協力を募り、救急搬送された自傷・自殺未遂者の症例登録をするシステム(システムの名称はJA-RSAです。)の運用を始め、2022年12月1日から、データの収集を開始しました。救命救急センターを具えた全国308の医療機関のうち78医療機関で倫理審査を終え、47医療機関が症例登録に着手しました。2024年12月31日までの25ヶ月間にJA-RSAに登録された事例は4521件となりました。日本臨床救急医学会・一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターは4521件の事例を分析し、2025年9月10日、「自傷・自殺未遂レジストリJA-RSA 2025年報告書」を公表しました。報告は昨年に引き続き2度目です(報告書は≪コチラ≫、前年の記事は≪コチラ≫です。)。なお、4521件は,救命救急センターを具えた47医療機関による症例登録の数にすぎません。ですから、全国的には相当多数の自傷・自殺未遂があることに注意を払う必要があります。

【性別と年代】4521件の男女別の内訳は、男性1634件、女性2887件でした。年代別の分布では、20歳未満が587件(13.0%)もありました。20歳代は1239件(27.4%)で最も多く、次いで30歳代が746件(16.5%)でした。

【自殺念慮・希死念慮(死にたい気持ち)】来院時の自殺念慮・希死念慮については、ありが1553件、なしが800件、不明が2168件でした。救命救急センター退出時の自殺念慮・希死念慮については、ありが889件、なしが2115件、不明が1517件でした。

【年代別による手段の傾向】自傷・自殺未遂の手段を30歳未満、30~60歳未満、60歳以上の年齢区分別にみると、いずれの年齢区分でも過量服薬が最多で、30歳未満では1250件、30~60歳未満では1145件、60歳以上では267件でした。

【精神科コンサルテーション実施の有無】精神科コンサルテーションは、実施ありが3166件、実施なしが1250件、不明が105件でした。実施なしには、実施しなかった場合のほかに、全身状態の不良などにより実施できなかった場合が含まれています。