大学の研究チーム:猛暑の翌日に、妊婦の重大疾患リスクが上昇

40度超えの日が続出するなどの記録的な猛暑の中で、熱中症にとどまらない健康リスクが明らかになりました。東京科学大学の公衆衛生学分野の研究チームは、2011~2020年にかけて日本全国11地域で報告された6947件の常位胎盤早期剝離の症例と、暑さ指数WBGTのデータを解析しました。その結果、暑さ指数が高い日の翌日に、常位胎盤早期剝離のリスクが上昇することを初めて統計的に実証しました。研究の成果は、2025年5月21日に公開され、論文にも掲載されました(資料は≪コチラ≫です。)。

【常位胎盤早期剝離とは】正常位置(子宮体部)に付着している胎盤が、胎児の分娩前に子宮壁より剝離する緊急性の高い妊娠合併症です。出産の約1%に発生するとされ、胎盤が出産前に子宮からはがれることにより、大量出血を引き起こし、産科危機的出血による妊産婦死亡原因の約1割(第2位)を占めます。赤ちゃんにとっても深刻な影響があり、脳性まひの最も多い原因とされています。これまでに、高血圧、喫煙、外傷などのリスク因子は明瞭でしたが、高温や湿度がどう影響するかは解明されていませんでした。

【暑さ指数WBGTとは】湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature)。熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案されました。人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、②日射・輻射などの周辺の熱環境、③気温の3項目を取り入れた指標です(環境省のサイトは≪コチラ≫です。)。

【研究の成果】暑さ指数が特に高かった日の翌日には、剝離リスクが1.23倍上昇しました。一方、その翌々日にはリスクが0.84倍に低下しました。1週間全体で見るとリスクの上昇は相殺されていました。また、妊娠高血圧症候群の妊婦では1.57倍、胎児の発育不良を伴う妊婦では1.47倍のリスクがあり、猛暑による影響がさらに強くみられました。

【社会的インパクト】この疾患では、初期対応が早ければ妊婦や赤ちゃんの命を守れる可能性が高まります。猛暑の直後には、出血や腹痛など常位胎盤早期剥離の初期症状に注意を払う必要があります。今後は、妊婦も高齢者や子どもと同様に「暑さによる健康影響を受けやすい人」として、社会全体で支える対象であるという認識が広がることが求められます。熱中症警戒アラートと連動した妊婦向けの情報発信や、通院・外出のタイミングの見直しなど、新たな支援や行動が必要です。こうした取組みを通じて、気候変動時代における安心な出産環境の構築に貢献することが期待されます。