児童福祉法改正により「地域限定保育士」の新資格が全国で始まります
現在、都市部を中心として保育士の慢性的な人材不足が深刻です。保育人材の確保を目的として、2015年度から国家戦略特区で例外的に認めていた「地域限定保育士」を、一般制度化して全国に広げるための改正児童福祉法が今国会で成立し、2025年7月1日から施行されます。地域限定保育士は、特定の都道府県又は指定都市においてのみ、通常の保育士と同様に業務を行うことができる資格です。登録後3年が経過し一定の勤務経験を積めば、通常の保育士として登録を受けられるようになります(改正の概要説明は≪コチラ≫の3ページ、関連記事は≪コチラ≫です。)。受験機会が増え、保育士不足の地域には良い制度に見えますが、この新資格により人材不足が解消に向かうかは未定です。
ここで「保育士資格」について概観してみます。保育士になるには、国家資格である保育士資格が必要です。都道府県知事の指定する指定保育士養成施設(大学、短大、専門学校など)を卒業するか、年2回実施される保育士試験に合格することにより資格を取得することができます。保育士試験では、8科目の筆記試験と音楽・造形・言語のうち2分野を選択する実技試験に合格しなければなりません。保育士試験の合格率は近年23%前後で推移しており、2023年度の合格率は26.9%(受験者数6万6625人、合格者数1万7955人)で、難関の資格です(資料は≪コチラA≫≪コチラB≫です。)。
厚労省の2020年8月24日付「保育士の現状と主な取組」は現状を分析しています(資料は≪コチラ≫です。)。指定保育士養成施設の卒業者のうち3割強は保育士の仕事に就きません。保育士登録者数は約154万人ですが、従事者数は約59万人にとどまっており、約95万人は社会福祉施設等には従事していません。常勤の保育士の経験年数は8年未満が約半数を占めており、早期退職の傾向があります。離職率は9.3%で、私営保育所に限れば10.7%でした。退職した理由を複数回答有りで質問すると、「職場の人間関係」(33.5%)、「給与が安い」(29.2%)、「仕事量が多い」(27.7%)、「労働時間が長い」(24.9%)が上位でした。
業務量が多く責任の負担が過重であるのに反し、賃金や労働時間・休日などの勤務条件が低く、人間関係の難しさを感じやすい職場であることが保育士の仕事の魅力を薄めている傾向があります。もしも保育士の人材不足の理由がその辺にあるとすれば、地域限定保育士という新資格を創設したとしても保育士に向かう動機づけにはならない可能性があります。業務量や重い責任に十分に見合った賃金を保障し、定員を増やす政策が肝要といえます。