デジタルの有用性は認められるも、デジタル教科書にはさらなる検証が必要では。文科省の意見集約から
文科省のデジタル教科書推進WGは、2025年2月14日、いわゆるデジタル教科書を紙教科書と同じく「正式な教科書」に位置づけることが適当であるとする中間案を公表しました(関連記事は≪コチラ≫です。)。その中間案について、文科省が2025年3月3日~4月9日関係団体に意見を求めたところ、校長会・学校関係、教育委員会関係、教科書関係などの24団体から意見書が提出されました。また、文科省は2025年3月3日~24日パブリックコメントを募集し、118件の意見が寄せられました。文科省は各意見を整理して、2025年4月28日公表しました(24団体意見集約は≪コチラ≫、パブリックコメントまとめは≪コチラ≫です。)。
政府は2019年末から1人1台の学習用端末を配備するGIGAスクール構想を進め、デジタルの活用を現場に求めてきました。WGの中間案は、「教科書代替教材」だったデジタル教材を「正式な教科書」に高めようとするものです。これに対し24団体は、デジタルは従前どおり補助教材の扱いにすべきとする慎重意見1件を除き、濃淡はあれ概ねデジタル教科書の効用を肯定しています。主流は、紙教科書かデジタル教科書かといった二項対立ではなく、両者を併用し、各教科の学習内容に応じて使い分け、互いに補完しあうものとして組み合わせることが有効とする意見です。しかし、デジタル教科書のみで足りるという意見はありません。デジタルのみで学力や考える力を維持できるのか不安に思う関係者は少なくないと見られます。
24団体の意見の一部抜粋の要約を紹介します。なお、以下の( )は、意見を提出した団体の略称です。紙教科書とデジタル教科書をともに無償給与し、学校現場が子どもの学習場面に応じてどちらも使用できる制度を整える必要がある(指定都市教委)。将来的には両者の良さを取り入れたハイブリッド教科書の存在があってもよい(全校長、町村教委、中核市教育長、全ICT首長協、教材備品)。小学生のうちは鉛筆を使って手を動かすことで鍛えられる面があり、小学校段階では紙教科書の良さを重視したい(市町村教委)。キーボード入力では言語野の寄与が下がるため書いて分かった気になるだけで思考力を伴わない危険がある、デジタルが情報過多であることも問題であり、膨大な情報が与えられると常に情報に対して受動的になり、自ら考える習慣が奪われる(文字活字)。今後さらに紙教科書とデジタル教科書の効果等の実証研究が必要である(都道府県教委)。デジタル教科書により学力調査の得点が向上した例についてその理由を詳しく知りたい(町村教育長)。教科書を紙とデジタルのどちらにするかは、成長期にある子どもの学習や人格形成、健康に重大な影響を与えるので、その選択を各教育委員会に丸投げすることは国の責任放棄に等しく、紙に比べてデジタルの方が学習効果が高いという根拠は乏しい(文字活字)。大学入試にデジタル教科書がどう影響するのか検討が必要である(全ICT首長協)。デジタル教科書の導入には慎重な判断が必要であり、効果的な活用について検証を続けてほしい(都道府県教委)。特別支援学校の教育現場の現状からは、全国一律ではなく様々な選択肢を用意することが妥当である(全特長、全特協)。教員一人で35人学級を指導するには厳しい、実習教諭的な人材配置が望まれる(全日中)。教師がデジタル教育の学習指導に習熟する必要がある(全連小)。デジタル教科書の導入により教員の負担が軽減されるとは考えにくく、教員の働き方について考慮する必要がある(日私小連)。デジタル教科書の子どもへの健康面の心配から否定的な保護者も少なくない(全連小)。教員が選択に迷うので、二次元コードを活用した資料を厳選したものにしてほしい(町村教育長)。デジタル教育が先行したスウェーデンなどの北欧では近年、科学的な検証を重ね、教科書をデジタルから紙に回帰させるなど政策を見直す動きが出ており、このような世界の流れの中で、デジタル教科書の効果や影響に関する研究、デジタルのメリット・ディメリットを検証してほしい(全日中、市町村教委、都市教育長)。
こうした議論状況や諸外国の例からすると、結論を急ぐことはなく、デジタル教科書の効果や課題の検証を行うことが先決といえます。その場合、教員・教員団体や保護者、子ども自身の意見を聴くことも重要です。これに対し、報道によると、文科省は教科書の複数提供を恒久的に続けることは難しいとして、紙とデジタルの併用を続けることは困難だと説明したとのことです。