こども家庭庁は、「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」をとりまとめました

こども家庭庁は、2024年12月26日、「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」をとりまとめました。関係自治体に通知するとともに、最高裁判所を通じて各裁判所に周知されます。ここまでの経過を整理してみます(通知は≪コチラ≫、マニュアルは≪コチラ≫です。)。

子どもが虐待されているとき、これまでは児童相談所長の権限と判断によって子どもを一時保護しました。裁判所の手続は不要でした(ただし、2ヶ月を超えて一時保護をするときは家庭裁判所の承認が必要でした。)。しかし、一時保護は、子どもの行動の自由を制限し、親子分離の結果をもたらします。そのため、人権保障の観点から裁判所の関与が必要であるとの意見が指摘されていました。国連・子どもの権利委員会の日本政府に対する勧告書も「子どもを家族から分離するべきか否かの決定に関して義務的司法審査を導入」すべきことを求めています。また、一時保護の判断機関と、その後の処遇を担当する機関がともに児童相談所長であることによって、親子再統合に向けた児相による調整に支障を来たすことがあります。

これらを受けて、2022年6月8日、児童福祉法33条が改正されました。この改正によって、親権者の同意がある場合等を除き、一時保護の開始から7日以内又は事前に、児童相談所長は裁判官に一時保護状の発付を請求しなければならないことになりました。施行日は、2025年6月1日が予定されています。この「一時保護時の司法審査」は新しい制度です。そこで、児相による手続の円滑を図るためマニュアルが作成されました。マニュアルには、新制度の概要、一時保護の要件、一時保護状の請求手続、参考書式などが網羅されています。今後、児相はこのマニュアルに沿って一時保護状の請求手続を行うことになります。

ところで、一時保護状を必要とするのは、親権者の同意がない場合に限られます。親権者の同意がある場合には裁判所によるチェックはありません。改正法は、親権者には配慮したものの、子どもの立場・子どもの権利を軽視していると評価できます。国連・子どもの権利委員会の勧告書は、全件について義務的司法審査を導入するよう求めています。親権者の同意の有無にかかわらず子どもの権利が侵害される危険があるので、全件について司法審査を導入する手続を定める必要があります。

※国連・子どもの権利委員会の日本政府に対する第4・5回勧告書(2019年)のパラグラフ29(a)は、以下のとおりです。「子どもを家族から分離するべきか否かの決定に関して義務的司法審査を導入し、子どもの分離に関する明確な基準を定め、かつ、親からの子どもの分離が、最後の手段としてのみ、それが子どもの保護のために必要でありかつ子どもの最善の利益に合致する場合に、子どもおよびその親の意見を聴取した後に行なわれることを確保すること。」