ミニ情報 どこまでが体罰、どこから先がセーフ?
国連・子どもの権利委員会は、2010年、日本政府に勧告しました。「学校における体罰が明示的に禁じられていることには留意しつつ、委員会は、その禁止規定が効果的に実施されていないという報告があることに懸念を表明する。委員会は、すべての体罰を禁ずることを差し控えた東京高等裁判所の曖昧な判決(1981年)に、懸念とともに留意する。」(同年の第3回勧告書・47パラグラフ。勧告書全文は≪コチラ≫です。)。
わが国の学校教育法11条には、こうあります。「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」たしかに、その但し書に、体罰禁止がはっきり書いてあります。しかし、この禁止規定がわが国で厳密に守られていないことを、国連・子どもの権利委員会は懸念するのです。
国連・子どもの権利委員会は、1981年の東京高等裁判所の判決にも懸念を表明します。その判決とは、東京高裁の昭和56年4月1日の判決です。どのような事案だったでしょうか。中学校の教師が体育館での体力診断テストで、悪ふざけをした生徒に対し、平手で額を一回押すようにたたき、右手の拳を軽く握り、手の甲を上にして自分の肩あたりまで水平に上げ、そのまま振り下ろして頭部をコツコツと数回たたきました。その間、生徒は不満げでしたが、反抗したり反発したりすることもなく、おとなしく叱られる態度でした。この教師の行為が起訴されて、暴行罪に問われたのです。
第一審判決は、教師の行為は暴行罪に当たり有罪としました。これに対し、東京高裁は破棄自判して、教師に無罪を言い渡しました。理由は、教師の行為は、懲戒権の行使として唯一最善の方法であったかは別として、懲戒権の裁量の範囲内にあり、正当な行為であるというのです。その前提として、「生徒の好ましからざる行状についてたしなめ・・・る時に、単なる身体的接触よりもやや強度の外的刺激(有形力の行使)を生徒の身体に与えることが、注意事項のゆるがせにできない重大さを生徒に強く意識させるとともに、教師の生活指導における毅然たる姿勢・・・を相手方に感得させることになって・・・効果があることも明らかである・・・単なる口頭の説教・・・によるだけでは微温的に過ぎて感銘力に欠け、生徒に訴える力に乏しいと認められるときは・・・一定の限度内で有形力を行使することも許されてよい。」とも述べています。
教師が生徒におこなった行為は、わが国ではしばしば目の当たりにするかもしれません。これを東京高裁は無罪にして、許容しました。しかし、国際的基準からすると体罰に当たるのです。東京高裁の判決の感覚と国際的基準の違いについて十分吟味する必要があります。このことはまた身体的虐待の解釈にも通じていると理解しましょう。
※子どもの権利条約の締約国は5年ごとに報告書をまとめて、国連・子どもの権利委員会に提出しなければなりません。権利条約は、政府以外の子どもの専門機関(NGO)にも報告書(カウンターレポート)を提出するよう求めています。国連・子どもの権利委員会は、政府や専門機関との質疑応答を経て審査を行い、当該締約国宛の勧告書を採択します。