長野県松本地域初の松本赤十字乳児院「里親支援センターひまわり」の樋口忠幸院長さんにインタビューしました

2022年の児童福祉法改正により、2024年4月1日から里親支援センターが全国で始まりました(関連記事は≪コチラ≫です。)。長野県松本地域では、その第一号として、松本赤十字乳児院を母体とする「里親支援センターひまわり」が7月1日付でスタートしました。去る8月29日、松本赤十字乳児院「里親支援センターひまわり」の事務室において、樋口忠幸院長さんからお話をお伺いしました。以下のQはご質問、Aはお答えです。

Q:センター設立のいきさつは?  A:センターは7月1日付で長野県から認可を受けました。長野県下では二番目です。日本赤十字社の乳児院は全国に8つありますが、その中では、当院のセンターが初のケースです。日赤の本社からも協力していただきました。

Q:長野県内の状況は?  A:2024年4月1日付で長野県上田地域に、うえだみなみ乳児院を母体とする長野県で最初の「うえだ里親支援センター」が開設されました。長野県は、将来的に県内にある4つの乳児院を母体として、4つの里親支援センターを設置したい意向もあるようです。2施設の他には、長野市の善光寺大本願乳児院と飯田市の風越乳児院があります。

Q:里親支援センターが制度として設けられたのは?  A:以前から日本政府は国連子どもの権利委員会から、脱施設化を強く求められていました。これを受けて、こども家庭庁は、里親支援機関の制度を設けるとともに、里親等委託率を乳幼児75%以上・学童期以降50%以上とする目標を定めました。さらに、こども家庭庁は2024年3月、都道府県の社会的養育推進計画を2024年度末までに見直す中で、乳幼児75%以上・学童期以降50%以上となるよう2029年度における数値目標を設定するよう求めています(関連記事は≪コチラ≫です。)。ところが、日本の児童福祉分野は、これまで主に施設で保護するという方向で歩んできました。ちなみに、2023年度末時点における長野県の里親等委託率は全体で21.5%、3歳未満で38.8%、3歳以上就学前で37.3%にとどまっています。ですから、2029年度までの5年間でこの数値をほぼ倍増させることになります。また、これまで以上に地域社会全体で家庭養育を推進する体制づくりが求められています。このような流れの中で、里親支援機関の制度を高めて、児童福祉施設としての里親支援センターが児童福祉法で設置されることになりました。

Q:どのような苦労がありますか?  A:里親制度には数多くの課題があります。事務所施設や4名の職員配置基準を満たして最低限の形は整ったけれど、市民の認識や4名以外の人材なども含めて十分に機能していけるのか不安がないわけではありません。重要な課題の一つとして、里親支援センターは、子どもを里親に委託した後、里親と子どもが安定的に生活できるよう継続的に支援していかなければなりません。そこを市町村や里親会と連携してセンターが支えていくことになりますが、その体制が本当にできているのか。また、センターとしては家庭を定期的に訪問して支援することが必要になります。これを4名で担当することは困難です。プラス職員3人分までの補助の加算制度がありますが、職員には専門性や献身性が不可欠であり、果たして適切な人材が得られるかは大きな課題です。

Q:現在力を入れてやっていることは?  A:里親は子どものいない家庭のための制度でしょという市民の認識は低くありません。施設に代わって子どもを育ててもらうという認識を高めなければなりません。市民への認識の普及が圧倒的に足りません。こどもまんなかを社会に根付かせるようにする必要があります。里親制度を地域の人たちに知っていただき、里親になっていただく人を一人でも増やすことが当面の課題ですので、そこに力を入れています。それと、長野県が描いているのは、実親から子どもを取り上げて里親に委託するというのではなく、里親には預けるけれども市町村や里親支援センター等のバックアップの下で実親と里親が日常的に交流しながら皆んなで子どもを育てていくという将来像です。ただ、実親からすると子どもを取られるという意識があって、そうではないという認識を広めていくことも大きな課題ですね。

Q:松本地域で何か特徴的なことはありますか?  A:松本児童相談所、松本赤十字乳児院、松本市・塩尻市・安曇野市の3市、児童養護施設「松本児童園」、松本児童家庭支援センターが連携して、2022年に「信州松本圏域・新しい育みプロジェクト」が作られました。そこには在宅支援部会と里親支援部会が置かれ、定期的に会議が行われています。これによって、里親推進が県や児相だけでなく、市の担当者らと共に考え検討し協力して進める体制ができあがったことがこの地域の特徴です。この組織を通じて里親制度が市民に浸透していくきっかけになればと思います。

Q:当面の企画にはどのようなものが?  A:里親制度を広く周知し、一人でも多くの市民に里親になっていただくようさまざまな企画を打ち出しています。10月13日には、「里親さんを知る日in松本」という200人規模の講演会を開きます。会場は信毎メディアガーデン1Fホールです。参加費は無料ですので、一人でも多くの方にご来場いただきたいと思います(チラシは≪コチラ≫です。)。