離婚後共同親権を導入する民法の改正法が成立。今後の課題は?

2024年5月17日、離婚した夫婦の親権について、「単独親権」に加えて「共同親権」の選択肢を導入する民法の改正法が国会で成立しました(関連記事があります。≪コチラ≫をクリックしてください。)。この改正は親子関係のあり方に非常に大きな影響を与えます。

これからは離婚後も父母双方が親権者となるケースが増加するでしょう。共同親権は、円満離婚の場合には理想的に機能します。問題は、そうではなかった場合です。離別した父母が子どものことを毎回話し合って決めることは困難です。そのため「急迫の事情があるとき」と「日常の行為」は、子どもと同居の親が単独で親権を行使できる、との例外規定が盛りこまれました。しかし、その基準は抽象的であいまいです。

切実な場面のひとつは医療現場です。子どもに緊急の医療が必要になったとき、医師は親権者に説明して同意書に署名してもらいます。ところが、葛藤の末に離婚した不仲の父母が同席するのは容易でありません。そこで「急迫の事情があるとき」に当たると医師が判断して同居の親の同意のみで処置したとします。すると、別居の親から同意なき違法な医療であるとして紛争になる可能性があります。医師は裁判を気にして医療を控えかねません。実際に、家裁から面会を禁止された別居の親の同意を得ずに3歳の子どもに執刀した手術が違法であるとして、別居の親の病院に対する5万円の損害賠償請求が認められた判例があります(大津地裁2022年11月16日判決)。これでは医療現場に萎縮をもたらし、子どもの福祉を損ないます。かといって、医師の責任で父母を説得して双方から同意を得るようにと医師に要求するのは過重な負担を強います。日本産婦人科学会や日本小児学会など4学会は連名で、2023年9月1日、法務大臣宛に要望書を提出しました。そこでは「子どもの生命・身体を保護するために早急な医療実施が求められる状況においては、子どもを監護している親の同意のみで子どもが適切な医療を受けることができるような例外的対応」を求めています。あいまいな基準のままだと医療が過度に制約される可能性があります。ですから、子どもの安心・安全のために「急迫の事情があるとき」や「日常の行為」を明確化し、医師が迷いなく医療に従事できるよう丁寧に線引きすることが必要です。なお、学校や保育所のような子どもに関わる現場でも類似のケースが想定されます。

児童虐待やDVがあるときは、家庭裁判所は単独親権の決定をします。しかし、児童虐待やDVは密室で行われるので証明に難しさが伴います。家裁がどのように認定するのか、どの程度の児童虐待やDVが認められたときに単独親権の判断をするのか、新しい制度を導入しただけに混乱を招かないよう、ここでも基準を明確にすることが重要です。

離婚・面会交流・養育費や遺産分割の事件数の増加によって、現在でも家裁の事務量は増大しています。離婚後共同親権の導入により家裁の負担はさらに重くなり、裁判実務が停滞するおそれもあります。裁判官の増員はもちろん、児童虐待やDVなどの家庭の状況を専門的に調べる家庭裁判所調査官の人員を拡充する必要があります。