闇バイト摘発のため「仮装身分捜査」が始まります

SNSやインターネット上には、仕事内容をぼかしたまま高額な報酬をうたって犯罪の実行役を募集する闇バイトの投稿が出まわっています。簡単なアルバイト程度で高額の報酬をもらえるうまい話は世の中にありません。しかし、容易に高収入が得られると誤信した若者が応募して、強盗などの犯罪に走り、実刑判決を受け服役するケースが多数あります。警察をはじめ、若者が闇バイトに引っかかることがないよう予防策を講じています(関連記事は≪コチラ≫です。)。

警察はこれまで、捜査員の身分を隠して闇バイトのSNSに応募し犯罪グループと接触を図ろうとする捜査を試みてきました。しかし、犯罪グループは、本人確認と称して運転免許証などの証明書の提示を求めてきます。そうすると、捜査は暗礁に乗り上げ、一部の例外を除き、犯罪グループの検挙につながりませんでした。

そこで「仮装身分捜査」という新たな捜査手法が考えだされました。仮装身分捜査は、捜査員が架空の人物の運転免許証・マイナンバーカード・住民票などの身分証を使って闇バイトに応募して犯罪グループと交信し、指定された現場に実行役らが集結した時点で検挙して、犯罪を未然に防止することを想定しています。この捜査手法の法的な問題は身分証の偽造を伴うことで、これは形の上で公文書偽造罪に当たります。しかし、闇バイトを摘発する目的である限り正当業務行為(刑法35条)に該当し、違法性が阻却され、最終的に犯罪は成立しないと考えられます。警察庁は、この捜査手法は現行法下で適法と判断し、2025年1月23日、仮装身分捜査の導入を決め、その運用方法を定めた実施要領を公表しました。

実施要領によると、仮装身分捜査の対象となる犯罪は、闇バイトによる強盗・特殊詐欺、SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺などです。犯罪グループから身分証の送信を要求された場合に限り、捜査員は架空の名前や顔写真が載った身分証の画像を送ります。捜査員による悪用防止のため、作成した仮装身分証は施錠された設備で保管します。犯罪グループに仮装身分証の原本を渡したり、グループ以外の第三者に提示したりすることは禁じられます。実行役の検挙に留まらず、その裏にひそむ指示役や首謀者の検挙につながる成果も期待されます。

※おとり捜査との違い おとり捜査とは、警察又はその協力者が、身分や意図を秘して相手方に犯罪を実行するよう働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪に出たところを検挙するものです。覚せい剤や拳銃などの捜査で使われる場合があります。しかし、犯罪をそそのかして犯罪をやらせた場合、犯罪をさせた本人に教唆犯(きょうさはん)の犯罪が成立する余地があります。警察が犯罪を誘発させる側面があり、おとり捜査は違法とされるケースもあります。仮装身分捜査は、捜査員が犯罪の働きかけをしないところがおとり捜査と異なります。