親子心中は深刻な児童虐待にあたります

心中は死ぬ気のない相手方を無理やり道連れにして死のうとすることをさします。近松門左衛門の代表作「曽根崎心中」(1703年作)は、人形浄瑠璃や文楽、後には歌舞伎の演目になり、心中は大ブームを引き起こします。厳しい身分制度の下で金もなく一緒になれない若い手代の男と若い女郎の女が心中を遂げて、あの世で一緒になるという心中話は上方のみならず、瓦版を通じて全国に広がりをみせたのです。江戸時代にはその呼称ともあいまって、心中は美化され同情的にみられていたといわれています。8代将軍吉宗のころ、心中物の瓦版禁止や男女相対死処罰令が出されて心中は厳しい取締まりの対象となりました。幕府では「心中死」の用語はまかりならぬとして、相対死(あいたいし)という用語を使いました。

その流れなどを受けて親子心中を児童虐待と認識できない傾向もなくはありません。しかし、それは明らかな間違いですので、考えを改めなければなりません。親子心中による虐待死は、親によって何らの罪もない子どもが故意に殺され、子どもの意思や将来の人生が顧慮されることなく道連れにされるのですから、深刻な児童虐待にあたるのは当然のことです。それは、相手方の同意を得ない無理心中であっても、相手方の同意を得る同意心中であっても変わりありません(子ども虐待の手引き295ページ。≪コチラ≫です。)。

こども家庭庁は2005年から、心中死事件の件数と死亡した子どもの人数の統計をとり分析をしています。それによると2005年~2024年の約20年間に、少なくとも全国で457件の心中事件があり、それにより少なくとも635人の子どもが命を落としました。ほぼ同じ期間の児童虐待死の総数は1680人ですから、そのほぼ4割を占めています。心中による虐待死をなくすことは極めて重要な課題です。対策としては児童虐待防止の観点のみならず自殺防止の観点が重要になってきます。また、心中は児童虐待であるという認識を社会に浸透させる必要性が大きく、心中という用語を改めることも含めて考える余地があると思われます。

※こども家庭庁(同庁発足前は、厚労省)は、「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」を設置して、虐待死の背景要因等の分析・検証を行っています。専門委員会は、2005年4月に第1次報告を公表したのを初めとして、2024年9月の第20次報告に至るまで20回にわたり、児童虐待による死亡事例等の検証結果を毎年明らかにしてきました(関連記事は≪コチラ≫です。)。その報告書では、虐待死を心中死以外と心中死とに分けて分析しています。その件数と人数の部分のみを抜粋して集計した表は次のとおりです。

報告 1次~20次1次2次3次4次5次6次7次8次9次
公表年(西暦)月 05.406.307.608.309.710.711.712.713.7
心中死以外の件数 24 48 51  52  73  64  47  45  56
心中死以外の人数 25 50  56  61  78  67  49  51  58
心中死の件数 - 5  19  48  42  43  30  37  29
心中死の人数 - 8  30  65  64  61  39  47  41
10次11次12次13次14次15次16次17次18次19次
14.915.1016.917.818.819.820.921.822.923.9
  49  36  43  4849  50  51  56  47  50
  51  36  44  52  49  52  54  57  49  50
  29  27  21  24  18   8  13  16  19  18
  39  33  27  32  28  13  19  21  28  24
20次合計総合計
24.9 件数 1450件 人数 1680人
54993件
  561045人
  11457件
  16635人

(こども家庭庁「こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第20次報告)の概要」の表から作成しました。原典は≪コチラ≫です。)