東京都内で「赤ちゃんポスト」「内密出産」の運用開始へ

親が育てられない赤ちゃんを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」が2025年3月31日から東京都内で始まりました。妊婦が一部の病院職員にのみ身元を明かして出産する「内密出産」も同時に始まりました。いずれも2007年の熊本の慈恵病院に続き全国で2例目となりました。運用するのは東京都墨田区に本部を置く社会福祉法人賛育会の賛育会病院です。

赤ちゃんポストは、病院によると、赤ちゃんを預ける場所として24時間出入りが可能な入院棟1階に専用の部屋が設けられ、赤ちゃんのためのベッドが置かれています。入口付近には、場所を知らせる緑色のランプが常時点灯しています。対象は生後4週間以内の新生児で、病院は赤ちゃんを保護したあと一定期間預かり、その後は児相を中心として里親や乳児院につなぎます。病院は、親本人と接触できた場合には、本人の意向を踏まえたうえで、本人や赤ちゃんにまつわる情報を聞き取りたいとしています。

内密出産は、予期せぬ妊娠などで子どもを育てることが難しい妊婦が一部の病院職員以外に身元を明かさずに出産する方法です。医師や助産師が立ち会わない危険な出産を避けることが目的です。内密出産については、法務省と厚労省が2022年9月30日付でガイドライン「妊婦がその身元情報を医療機関の一部の者のみに明らかにして出産したときの取扱いについて」を発出しました。そこには、説得しても内密出産を希望する場合は、身元を明かさず出産できるとして市区町村長が子どもの戸籍を作成すること、医療機関から児相宛に要保護児童の通告をすること、母親の情報は医療機関が長期間保管し、子どもが出自を将来知りたいと希望したときに備え、母親の同意を得て開示の方法や時期について児相や里親、施設と情報共有することなどが示されています(ガイドラインは≪コチラ≫です。)。

赤ちゃんポストや内密出産をめぐり議論になるのが、子どもの「出自を知る権利」の問題です。赤ちゃんを匿名で預かる「匿名性」は、子どもの出自を知る権利に反するという意見もあります。病院は今回の運用の背景について、予期せぬ妊娠や医療者の立ち合いのない孤立出産に加えて、生まれたばかりの赤ちゃんを遺棄する事件が後を絶たない現状があるといいます。こども家庭庁の統計では、生まれて1ヶ月未満で虐待死した赤ちゃんは2022年度に15人、うち日齢0日児の死亡は9人にのぼりました。その要因として、予期しない妊娠、計画していない妊娠があります(関連記事は≪コチラ≫です。)。現状では出自を知る権利より赤ちゃんの生存、生命の権利を優先するのが比較考量上適切です。