「離婚後共同親権」を導入する民法改正案を法務省は今国会に提出する方針~児童虐待やDVが親権者決定の決め手のひとつに

現在の日本の民法では、婚姻中は、未成年の子どもに対する父母の「共同親権」が認められています。親権者は子どもの財産を管理し、居住先、教育や学校、しつけ、治療、服薬その他の諸事項を決めますが、これらを父母が共同で行います。しかし、離婚後は、父か母のどちらか一方しか親権者となることができません。これを「単独親権」といいます。内閣府によると、日本の離婚件数は年間20万件弱で、そのうち6割ほどの離婚夫婦に未成年の子どもがいます(資料は、≪コチラ≫をクリックしてください。)。

これに対し、法制審議会(法務大臣の諮問機関)の部会は、2024年1月30日、離婚後も父母双方が親権をもつ「離婚後共同親権」を導入する民法改正要綱案をまとめました(要綱案は、≪コチラ≫をクリックしてください。)。政府は要綱案を基にして今の通常国会に民法改正案を提出する方針です。

要綱案では、離婚後は「単独親権」に加えて、あらたに「共同親権」の選択肢を導入します。そして、父母の協議によって「単独親権」か「共同親権」かを決めます。しかし、協議できないときや協議しても合意できないときは家庭裁判所が決定します。その際、家庭裁判所は、夫婦や親子の関係などを総合的に考慮しますが、児童虐待やDVが続くおそれがある場合は「単独親権」と決定します。

「離婚後共同親権」の導入について、DVの被害者からは、家庭裁判所が児童虐待やDVを適切に判断するか懸念する声が寄せられています。他方で、非親権者となった親からは「離婚後共同親権」の導入を歓迎する声があがっています。このように「離婚後共同親権」は利害の対立する問題をはらんでいます。今後民法が改正された場合には、親権者の決定をめぐって家庭裁判所への申立てが増加することが見込まれ、児童虐待やDVの存否をめぐって争いが激化することも予想されます。家庭裁判所の人的・物的体制の整備、子どもの最善の利益を基礎にした適切な事実認定や判断の手続等が重要な課題です。なお、親権といえば親の権利の意味にとらえがちです。しかし、子どもを養育する義務を果たすために親に認められました。ですから、親自身のためではなく、子どもの利益のためにこそ親権を行使するという基本を見失わないことが大切です。