「日本版DBS」法案の次期臨時国会への提出は見送りに

DBSとは、イギリスのDisclosure and Barring Servicer(略称DBS、日本語名称「前歴開示及び前歴者就業制限機構」)という公的機関のことです。DBSは、就職希望者の性犯罪歴等に関する業者からの照会に応答する権限などを有しています。子どもと接する業種の業者は、就職希望者の承諾を得てDBSに性犯罪歴等のチェックを依頼し、DBSは有罪判決その他の情報を確認して、証明書を就職希望者に郵送するとともに、性犯罪歴等なしの場合には業者にも通知するという制度が2012年にイギリスで導入されました。この制度によって、子どもと接する業種に、性犯罪歴等のある人は採用されないということになりました。

日本でDBSへの関心が高まったのは2020年に起きた強制わいせつ事件といわれています。保育士のマッチングアプリを利用してベビーシッターとして働いていた男性2名が保育中の子どもの体をさわり逮捕されましたが、男性2名は前から性犯罪を繰り返していたというのです。子どもに対する性犯罪は表面化しづらいところがある上、こども家庭庁によると性犯罪の有罪判決確定後5年以内に性犯罪で有罪判決確定となったケースは13.9%と高くなっているので(再犯性が高い)、被害を未然に防ぐ仕組みが必要だと考えられました。

こども家庭庁の有識者会議は、2023年9月5日、「日本版DBS」制度に関する報告書をまとめました。報告書では、子どもに接する仕事に就職しようとする場合、雇用者側は性犯罪歴があるかどうかを政府が管理する性犯罪歴システムで確認することにし、こうすることで性犯罪歴のある人が就職できないようにしようと提言しています。報告書は、この制度を「義務づけ」とする対象の業種として学校や保育所、児童養護施設などの公的機関とする一方、学童クラブ、学習塾、スイミングクラブ、芸能事務所などの民間の事業者は「任意」の利用としています。また、報告書は、対象となる性犯罪歴として、性犯罪を定めた法律に違反した有罪判決の前科のみとし、条例違反の前科(青少年健全育成条例や迷惑防止条例など。自治体ごとにばらつきがあるので、国が把握することには課題があるとされました。)と不起訴処分(「嫌疑なし」の不起訴処分の件などまで含むことには、なお検討が必要とされました。)は対象外としました。報告書は、更生や社会復帰の観点から照会期間には一定の期限を設ける必要があるとも提言しています。

政府は、10月20日に始まる臨時国会に「日本版DBS」法案を提出する方針を立てていました。しかし、制度設計の検討が不十分であるなどとして、提出は見送られることとなりました。