児童相談所の労働環境の改善こそ子どもを守れる土台
報道によると、千葉県の市川児童相談所の元職員Aさん(31歳)が、働いていた一時保護施設の人手不足や長時間勤務による苦痛で退職せざるを得なくなったとして、千葉県を被告として未払い賃金や慰謝料など計約1200万円の支払いを求めていた訴訟で、千葉地裁は2025年3月26日千葉県に計約50万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。認容金額はともかく、重要なのは千葉県に違法行為があったと裁判所が認定したことです。千葉県は即日控訴しました。
Aさんは、2019年4月、新卒の児童指導員として市川児相で勤務を始めました。Aさんによると、定員20人のところ、小学生を中心として年齢も性別も異なる40人近い子どもが一時保護施設に入所していました。研修もないまま、着任の翌日から日勤夜勤2交代で働き、夜勤ではトラウマを抱えて眠れない子どもの対応に加え、一時保護で入所してくる子どもへの対応、電話対応に追われました。子どもの寝ている部屋の前の廊下に布団を敷いて仮眠しました。同年7月末にうつ病と診断されて休職し2020年2月に一時復帰しましたが、翌月再び休職し2021年11月に退職しました。
訴訟の主な争点は2点ありました。一つは、昼の休憩時間や夜勤の際の仮眠時間が労働時間に当たるか。これらが労働時間に該当するとすれば、その時間分の賃金支払義務が千葉県に発生します。もう一つは、研修を受けることなく、人手不足の人員体制の下で長時間勤務を強いられたことが安全配慮義務に違反していたか。安全配慮のない下で稼働して精神症状を生じたことは精神的苦痛となり、慰謝料の対象となりえます。
判決は、1点目の争点につき、人員不足から一時保護施設の職員は昼休み等の休憩時間に休憩できないこと、夜間の仮眠時間が労働から解放されていないことから、休憩時間・仮眠時間を労働時間と認め、未払い賃金の発生を認めました。2点目の争点につき、一時保護施設には定員の倍の40人の子どもが入所し、職員は夜勤の際の仮眠時間も子どもの体調悪化や緊急の一時保護要請などの突発事案に対応する必要があり、必要な休憩がとれていなかったと認定しました。新任職員には多忙を理由に実践的な研修もなく、子どもに対する心のケアに悩むAさんに対して長時間労働を強いており、こうした安全配慮義務に反した勤務による精神的苦痛に対する慰謝料30万円を認めました。
全国では児童虐待が後を絶たず、虐待死や重大な事案が多数発生しています。児相や一時保護施設の仕事は極めて重要です。今回の訴訟事件は、児童虐待対応に追われて心身ともに疲弊している職員や過酷な労働環境の実態を私たちに示しました。