こども家庭庁は、児童虐待対応マニュアルからSBSの診断基準を削除しました

こども家庭庁は、2024年3月29日、児童虐待対応マニュアルを改正して、「揺さぶられっ子症候群」(シェイクン・ ベビー・シンドローム=Shaken Baby Syndrome=SBS)の診断基準に関する記述を削除しました(こども家庭庁の改正通知は≪コチラ≫を、改正後のマニュアルは≪コチラ≫を、改正前のマニュアルは≪コチラ≫をクリックしてください。)。マニュアルには法的拘束力はありませんが、児童虐待の現場ではこのマニュアルに沿って手続が進められていますので、実務には大きな影響があります。

改正前のマニュアルは、「SBSの診断には、①硬膜下血腫またはくも膜下出血、②眼底出血、③脳浮腫などの脳実質損傷の3主徴が上げられ」「家庭内の転倒・転落を主訴にしたり、受傷機転不明で硬膜下血腫を負った乳幼児が受診した場合は、必ずSBSを第一に考えなければならない。」と明記していました。SBS理論とは、①②③の3つの症状が認められれば、たとえ保護者が否定したとしても、頭部外傷を招くほどの暴力的な頭部揺さぶりがあったと推論するものです。乳幼児が夜泣きしたときなどに、これに苛立った保護者が乳幼児の頭部を激しく揺さぶっておとなしくさせようとしたときに起きることが多いとされました。SBS理論は、1970年代に英米の医師が提唱し、児童虐待事件を見逃さないための基準として世界に広まりました。わが国では2013年の児童虐待マニュアルに盛りこまれました。

日本の検察庁は、SBS理論に基づいて頭部の揺さぶりが疑われる事案を起訴するようになりました。ところが、2016年、SBS理論には十分な科学的証拠がないとの報告がスウェーデンで発表されました。裁判所は、2018年から、3症状があったとしても、偶発的な事故や先天的な疾患などによって頭蓋内出血が生じた可能性が否定できないなどとして無罪判決を言い渡すようになりました。医学界からも異論の声が出ました。厚労省は、眼科・小児科・脳神経外科・法医学・放射線の各学会や児童相談所と意見交換をしました。この流れを受けて、マニュアルからSBSの診断基準が削除されました。改正マニュアルでは、虐待通告元の医療機関や保護者ら家族からの事情聴取のほかに、複数の診療科等のセカンドオピニオンを受けることを推奨しています。

乳幼児は被害状況を説明することができません。そのため、保護者・家族の説明や医師による診断に基づき科学的見地も踏まえて総合的に判断することが求められます。